Column

08/03/14

 心象風景って言葉はよく聞くが、具体的にはどんなだろうか。建築をデザインするという職業に携わって以来、なんとなく、幼い頃にみた夢や風景を思い出すことがある。「行く川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず」方丈記の冒頭に出てくるこの文章はあまりにも有名だが、私は川を見て育った。小学校の帰り道、よく橋の手摺りから川をのぞき込んで、そのまま流れていく川をずっとじっと眺め続けて、そのうち、川が流れているのか、自分が背中の方向に動いているのか分からなくなってきて、終いにはまるで走る船の船尾から海を覗いている様な感覚にまでトリップして、気が付いたらたぶん30分くらいはただアホみたいに川を覗き込んでいた様な気がする。「美しい」という言葉をまだ僕が持ち合わせていない時期だから、ただそこにある風景でしかなかった。山も、山に切り取られた空も。いつからそれを「美しい」と思う様になったのか。本当は「美しい」なんて無いのかもしれない、と思ったりするのは、確かに子供のころ、そんな概念がそもそもなかったのに、でもただ惚れ込んでいた風景の様なものは確かに、あった。「美しい」と言った瞬間に、本当にそうなのか?という疑問も湧いてくる。やっぱり言葉は何処まで行っても言葉なのか。

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